「森林科学」(日本林学会発行)に樹液流計測について原稿を書きました。

シリーズ「森をはかる」


樹液流

鈴木雅一(東京大学大学院農学生命科学研究科)


樹液流とは

樹木が水を根から吸って葉から蒸散するときに生ずる、樹幹を上昇する水の流れを樹液流という。一般に広葉樹では道管、針葉樹では仮道管と呼ばれる細胞を通って樹液が流れる。
樹木がどれだけの水を消費しているか、土壌の乾燥にたいしてどのような反応を示すかを調べるとき、樹液流の流量や流速がわかれば大変好都合である。樹木が健全な状態にあるかどうか、人が病気のときに脈を取るように、樹液流の状態から判断することも期待されるし、樹液流動の季節変化からフェノロジー(生物季節)が論じられる可能性もある。このため、できるだけ非破壊で、樹液流を調べる方法が開発されてきた。

どこを流れているか

はじめに、幹の断面のどこを水が流れているかを調べる方法について述べる。最も単純な方法は、地際で幹に細い穴をあけ、酸性フクシン液(染色液)を滴下する方法である。数十分から数時間後に樹木を伐倒し幹を輪切りにすると、着色した部分から樹液が動いた軌跡がわかる。初めから木を地際で切断し、酸性フクシン液の入った水を断面から吸水させて、通水部分を特定することもある。粗野な調査方法ではあるが、針葉樹の心材部分は通水しないことや樹種によってはラセン的に樹液が上昇することなど、樹液がどのように動いているか確実にわかる。一般に、辺材部分でも水を良く通す一部分と、ほぼ同じ速度で通水するその他の部分がみられる。

樹液流の測り方

さて、樹液の流速や流量を非破壊で測定する方法には、樹幹に熱を与えて温度を計測し、樹液によって運ばれる熱をモニターして求める2種の方法がある。ヒートパルス法と茎熱収支法(幹熱収支法ともいう)である。熱で樹液流を計測する方法は、初めHuber(1932)によって提案され、ヒートパルス法に発展した。

[ヒートパルス法]
ヒートパルス法は、樹幹にヒータを組み込んだ針を差し込み、1秒前後発熱させる。ヒータの上方に1cm程度離れたところに細い温度計を挿し、温度の伝播が樹液流で早くなることを用いて樹液流速を求めるのである。ヒータによる熱は、幹を伝導する成分と樹液に乗って移流する成分に別れるが、移流拡散方程式から解析的に得られた関係式を用いて、温度変化の特徴的な時刻から流速を容易に算出する方法が1960年に開発された。温度をヒータの上下2点で計る方法である。森林での計測では、電源や計器の制約で長期自記観測は少なかったが、近年野外でのコンピュータやデータロガーの利用が容易になり、ヒートパルス法で樹液流の季節変化が計測可能な自記装置も各種用いられるようになった。

[茎熱収支法]
茎熱収支法は、茎に巻き付けたヒータに一定電圧をかけ、値のわかった発熱をさせ、茎を伝導する熱量、外部へ逃げる熱量を計測し、樹液流で運ばれた熱量をこれらの残差として求める方法である。1960年に提案され、1980年代に実用にたえるデータが取れるようになった。この方法の測定機器も約10年前より市販されている。ヒートパルス法が、ヒータを挿した部分の流速を求めるのに対して、茎熱収支法では原理的に断面を通過する水の総量が得られることになるので、水の消費を研究する上で利点がある。ただし、茎の上下に伝導する熱量など求めるのに測定項目が多い。また、直径1cm程度までは比較的容易に計測可能だが、幹が太くなると幾つかの困難が生ずる。太い幹については、中の温度分布の把握が必要となるなど課題が残っており、研究段階といえる。

測定の事例

図1に、樹高6.5m、胸高直径10cmのスギを対象にヒートパルス法と茎熱収支法を同時に用いて樹液流を測定した結果を示す。ヒートパルスの装置は地上1mの幹に設置し、茎熱収支の装置は陽あたりの良い枝(高さ4m、直径1cm)とあまり陽のあたらない枝(高さ1.2m、直径1.2cm)に着けられている。2方法の結果は良く対応した日変化である。
詳しく調べると幹と枝の日変化の差異(幹の変化が遅れる)も検出される。樹液流計測では、雨が降って樹冠が濡れるとほとんど樹液が流れないことなどが明瞭にわかるので、森林流域を対象とした水循環の研究でも重要な測定項目となっている。

1997.6.7